2009年5月23日土曜日

Vol.3 なんでよぉ

「飛びなさリネ2 RMTいってば! あの毛玉を攻撃すんの!」
 エルピナの怒鳴り声など気にした様子もなく、ヴェズルフェルニルは近くのオークの枝で悠然と毛づくろいをしている。ルナティックの〈rmt rmtやわらかな毛〉で作った毛玉をモンスターに見立てて狩りの練習しようと思ったのに、まるで言うことを聞いてくれないのだ。
 枝に留まるヴェズルフェルニルの足とそれを見上げるエルピナの手首が、細くて長い革紐でつながっている。普通、ファルコンをこんなふうにつないだりはし rmtない。まだ馴れていないので念のためにつないでおいたのだが、これは大正解だった。革紐がなければ逃げられていたところだ。
 ヴェズルフェルニルはハンターギルドのファルコン飼育場にはいなかったが、飼育場から離れたところでちゃんと飼われていた。
 再会したヴェズルフェルニルは立派なファルコンに成長していた。大柄だが細身の体格は、どことなくエルピナと似通った印象がある。汚れひとつない翼は白地に茶と黒いまだらが美しく、その模様は織物のように整然と配置されている。完全無欠の美しさだ。それが雛のころの超然とした印象をさらに強いものとしていた。
 打ち捨てられるようにしてぽつんと置かれていた彼女のケージを前にして、兄は言った。
「ヴェズルフェルニルは人の命令を聞かない。狩りの役には立たないファルコンだ」
 だから決してハンターたちに貸し出されることはないのだと。
 それを聞いたとき、エルピナは、
(わたしを待っててくれたんだ!)
 と直感した。その確信が与えてくれたパワーで兄の反対を押し切れた。ギルドの人々が「ヴェズルフェルニルは貸さないことになっている」と言うのを説き伏せ、彼女を自分のファルコンにすることもできた。

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